2006年度は大阪大学大学院理学研究科COE特任研究員として、 プロジェクト推進に係る数学研究に専念させて頂きました。 本ページは 21 世紀 COE プログラム「究極と統合の新しい基礎科学」 第 3 班「原理の探求」平成18年度実績報告書の原稿を基に作成致しました。
モーデル・ヴェイユ格子の理論は1990年頃に塩田徹治氏が導入した、 比較的新しい概念である。 有理楕円曲面のモーデル・ヴェイユ格子の分類は、 小木曽啓示氏と塩田徹治氏による共同研究で1991年に発表された論文の通りである。 そして、球の充填問題や特異点の変形理論への応用等が報告されている。 また、モーデル・ヴェイユ格子の理論は符号・暗号理論での応用もあって、 実用面からも研究の発展に期待が持たれている。
有理楕円曲面とは、相対極小な楕円曲線束の構造をもつ非特異有理曲面を指す。 更に楕円曲線束は切断を持つと常に仮定しておく。 楕円曲線束の生成幾何ファイバーは、底曲線の有理函数体上で定義された非特異完備代数曲線である。 その有理点全体は有限生成アーベル群を成して、モーデル・ヴェイユ群と呼ばれている。 モーデル・ヴェイユ群の自由部分に、 有理曲面の交点形式から自然に内積を導入したものがモーデル・ヴェイユ格子である。 種数が2以上の代数曲線束に対しても、 生成幾何ファイバーのヤコビ多様体の有理点全体を考えると、 楕円曲線束の場合と同様の理論展開ができる。 種数が高い代数曲線束の場合にも、理論を拡張した塩田氏本人によって、 幾つかの示唆に富んだ研究報告が有る。
齋藤氏と榊原氏の共同研究によって、任意に種数を固定した有理ファイバー曲面に対して、 モーデル・ヴェイユ階数が最大の場合が考察された。 そのときファイバー構造はあるクラスの超楕円曲線束となる事が示され、モーデル・ヴェイユ格子の構造も明らかにされた。 次に非超楕円的な有理ファイバー曲面に対しても、ヴィエト氏と齋藤氏の共同研究があった。 種数よりは代数的であるが、クリフォード指数も代数曲線の重要な不変量の一つである。 私と今野一宏氏との共同研究により、 クリフォード指数と種数に沿った最大モーデル・ヴェイユ階数の有理ファイバー曲面に対しても、 上述と同様の結果が得られていた。
本年度は種数が2の有理超楕円曲面を詳細に研究して、 小木曽氏と塩田氏による有理楕円曲面の場合と同じ水準に至る、 モーデル・ヴェイユ格子の分類を試みた。 特にモーデル・ヴェイユ階数が最大という仮定が外れて、 代数曲線束が可約な特異ファイバーを多く持ち得る点が既存の研究と大きく異なる。
種数が2の超楕円曲線束は堀川穎二氏による顕著な研究結果がある。 超楕円曲線束の相対標準束に基づいて、 特異ファイバーが曲面の大域的な不変量と関連立てながら分類されている。 堀川氏の結果を有理曲面に特化する事で、 種数が2の有理超楕円曲面が持ち得る、 特異ファイバーの種類と本数の組み合わせの候補は直に絞り込める。 私は適当な特異ファイバーを有する有理超楕円曲面が、 本当に構成が可能であるか否か、丁寧に確認した。 特に、曲線束が(−1)切断曲線を持ち且つ標準因子の自己交点数が(−2)の場合は、 持ち得る特異ファイバーがある特徴を持つ事に気付いた。
非特異完備代数曲面とその上の代数曲線を組にした双有理幾何は、 ハーツホーン氏や飯高茂氏等によって#極小の概念等が導入され、発展されている。 種数が2の有理超楕円曲面に対して、 有理曲面と超楕円曲線束の一般ファイバーを組にして#極小モデルを考察したところ、 標準因子の自己交点数が(−4)且つモーデル・ヴェイユ群が自明な場合を除くと、 平面曲線のペンシルが曲線束のモデルに取れる事が分かった。 平面曲線の不変量から、種数が2の超楕円曲線束は5系統に分類できた。 実は、曲線束が(−1)切断曲線を持ち且つ標準因子の自己交点数が(−2)なる、 先に紹介した有理超楕円曲面は5系統の内の丁度一つのクラスを占める。 そのクラスの有理超楕円曲面のモーデル・ヴェイユ格子は、有理楕円曲面の其れに帰着させて分類する事ができた。